まーたる文庫。

まーたるの小説・エッセイブログ🖋✨💕

2023-01-01から1年間の記事一覧

『天眼の子』

3 蒼き龍の国の国境を密かに越えてから、今日で幾つの朝を迎えたのだろう。 朱ノ夜は深い藍色の空の向こうに薄っすらと太陽の光を滲ませ始めた地平線を、瞬きもせずみつめながらゆっくりと深呼吸をした。 大樹の下で静かな寝息をたてて眠る龍砂王の目を覚さ…

『ミルクの温度』

深夜に飲むミルクはぬるめがいい。 熱すぎると萎れた心がさらにダメージを浴びて動けなくなるし、かといって冷たすぎても沈んだ心がさらに凍えて動かなくなる。 どちらにしても心が動かなくなるという点では同じなので、ならば間をとってぬるめのミルクでノ…

『天眼の子』

2 普段なら鼻息も荒く力強い馬の嗎が、今夜に限っては夜空に吸い込まれそうに頼りなく、密やかな緊迫感に包まれた王宮では天眼の子を探し出す出立の準備が着々と進んでいた。 一度星読ノ宮に戻った朱ノ夜は、自分が旅立った後のことを留守を任せる巫女たち…

『天眼の子』

1 天の眼が目覚める夜 その夜、一つの星が堕ちた。 千年もの間その場所でひときわ輝きを放ちながら瞬いていたその星の欠落は、数多の星々がひしめき合う美しい夜空を一瞬にして異質なものに変えてしまった。 星たちは天の主を失って動揺しているかのように、…

『いじわるなマリア ーside Manー』

あのひとの腕の中で俺は眠る。 不思議なくらい深い眠りにつけるあの腕の中はもう俺にとってはなくてはならない世界で、今夜行くよというメッセージの送信を確認して仕事場を後にした。 すでに階下に到着していたタクシーに乗り込み行き先を告げると、タクシ…

『いじわるなマリア』

私の腕の中で彼は眠る。 カーテンの隙間から差し込む月明かりが冴え冴えとその無防備な寝顔を照らす。 眩しいだろうとそっとカーテンに伸ばした私の腕は、しかし逃がさないと言わんばかりの力強さで押さえられていた。 仕方なく彼の眠りが妨げられないように…

雨夜のひとりごと。

彼が私の首筋に顔を埋める。 髪の毛の隙間をすり抜けるようにあたたかい吐息が触れると、その部分が火を当てられたように激しく熱くなるのを知ってか知らずか、彼は私を抱きしめる腕に力をこめる。 少し前から降り始めた雨はバスルームの窓を強く叩き、時折…

『Shining Days!』

……はぁ、はぁ、はぁッ……! 胸の鼓動が早鐘を打つように激しくなるのも構わずに、勉は空港行きのバス乗り場へ思い切り駆け出していた。 成田空港行きのバスの出発まであと5分。 ーーこんな大事な日だってのに、なんで目覚まし止まってんだ⁉︎ 昨夜勉は緊張の…